エクソソームバイオマーカーを用いて疾患情報を解読する
エクソソームは、エンドサイトーシスを介して取り込まれ、多胞体の膜融合後にエクソサイトーシスを介して放出される径の小さな(<>1。 その小さなサイズにかかわらず、エクソソームには起始細胞や臓器の健康状態に関する情報を豊富に含んでおり、診断用途の疾患のバイオマーカーに完璧に適しています。 形成されたエクソソームには細胞の主要成分[血漿膜(表面タンパク質を含む)、 細胞質ゾル、DNA、RNA(mRNAやmiRNAを含む)、タンパク質など]が含まれています。エクソソームを単離し、その成分を解析することで、疾病状態共通の細胞の変化を特定し、早期に疾病を発見したり、より非侵襲的に診断することが可能となります。
サンプリングが可能な一部の疾病(血液がんや皮膚疾患など)では、より非侵襲的に疾病の特性化や診断を行うことが一般的となっています。一方、エクソソームをバイオマーカーとして使用することは、より免疫特権的な部位や、よりサンプリングが難しい部位(脳や脊髄2-5、腎臓6-8、心臓、そして血管9, 10など)で発生した疾病の自然史を調べるより非侵襲的な方法を開発するために欠かせないツールです
エクソソームの回収源
エクソソームはほぼすべての体液から単離することができますが、最適な診断や予後診断目的では、対象臓器に直接触れる体液を選択すると良いでしょう。全身の疾病状態解析では、すべての臓器に接触する体液である血液をまず選択すべきです。 エクソソーム成分の解析に適したそれ以外の体液には、羊水11、母乳12、唾液11、涙13、尿14, 15があります。これらのいわゆる「リキッドバイオプシー」(1974年に発表された科学論文内で初めてこの用語が使用された)16は、臓器周囲の体液の成分(エクソソーム成分など)を使って、当該臓器機能の非侵襲的診断を可能にします。
単離されたエクソソームの純度は信頼性があり、再現可能な解析に極めて重要です。したがって、エクソソームを含む体液の純度を維持することに特別の注意を払う必要があります。体液検体を採取する際は、純粋な体液コンパートメントが他の体液で意図せず汚染されないように気をつけてください。血液が目的体液である場合、採血時の汚染はあまり問題になりませんが、脊髄クモ膜下腔や膝の滑膜関節など、別のコンパートメントから体液を採取する際は、検体が注射針に付着した血液で汚染されないように注意する必要があります。 非侵襲的な方法で体液を採取する(排せつされた尿を清潔な方法で採取するなど)場合でも、検体の汚染を防ぐための最良事例にしたがってください。
エクソソームの単離
現在、リキッドバイオプシーからエクソソームを単離するために、分画超遠心分離法、密度勾配遠心法、精密濾過法、抗体磁気ビーズ法、マイクロ流体デバイスなどの方法が一般的に使用されていますが、分画超遠心分離法が最も一般的に使用されています。17エクソソームの単離には分画超遠心分離法が最も広く使用されているため、結果の再現性と信頼性を確保するために、適切なローターと適切なプロトコルを使用することが極めて重要であることを理解しておく必要があります。18
エクソソーム単離方法の比較
分画超遠心分離法
- 利点:最も標準的な手法。検体の粘度を説明するために簡単に適応可能
- 不利点:回転時間が長い。エクソソーム、タンパク質、共沈からウィルスを分離できない
密度勾配遠心法
- 利点:不要な共沈が少ない。特別手法によりウィルスから分離可能
- 不利点:同じ径の種では沈殿物を特定できない
精密濾過法
- 利点:速度を向上
- 不利点:マトリックス/膜の相互作用、タンパク質の同時精製、最適下限回復
抗体磁気ビーズ法
- 利点:エクソソームの集団を高度に単離
- 不利点:検体が大量にある場合不向き。エクソソームはそのままの状態でビーズから溶出しないことがある
マイクロ流体デバイス
- 利点:低コスト、検体の量が少なくて良い
- 不利点:利用可能なプロトコルにより、効率性が変動する
どのエクソソーム単離方法を使用する場合でも、エクソソームの単離には技術が必要で、厳格であるほど必ずしも良いわけではなく、適切な判断とそれまでの経験に基づいて判断してください。過度に厳格な粒径の分離限界や抗原性要件を適用することは、過度に大きな分離限界粒径や過度に対象範囲の広い抗原性要件を適用するのと同様に良くありません。検体の純度と整合性が最優先であることを念頭に置いてください。 エクソソームの検体の純度を保つには、エクソソームの単離の全行程を監視し、検体を紛失せず、データの信頼性を維持できるようにする必要があります。
エクソソームや動物細胞など、膜結合性構造がある場合、乱暴または不適切な取り扱いにより、エクソソームが細胞分解または意図しない細胞分解を起こし、検体を紛失してしまうことがあります。そのため、検体を洗剤やマトリックスメタロプロテアーゼから離れた場所に置き、推奨される温度、推奨されるバッファーでプロトコルの各手順に慎重に従ってください。
検体の取り扱いを誤ると(特に、洗浄中)、検体すべてを紛失してしまうことがあります。 プロトコルの各手順を反映して、チューブに必ずマーキングするようにします。これにより、有益なエクソソームを含んだ上清を処分してしまったり、保管すべきペレットの入ったチューブを紛失するのを防ぐことができます。 これは、洗浄や上清の取り扱いなどさまざまな手順のあるプロトコル実践中によくあるミスです。事前に注意しておくことでミスを防ぐことができます。また、各作業を慎重かつ適切な認識を持って、手順に従うことも重要です。
エクソソームを用いた疾病プロファイリング
エクソソームを用いて疾病の進行状況を診断したり、追跡するには、健康的/疾病状態にないエクソソームプロファイルがどのようなものであるかをまず明確にする必要があります。 このため、健康なプロファイルの潜在的なばらつきの範囲を評価するため、1人の患者の病気の発症前後のエクソソームプロファイルを経年的に研究しなければならない集団研究(これには、膨大な忍耐または素晴らしい偶然の一致が必要となります)か、「健康な」細胞株から生成したエクソソームと「疾病状態の」細胞株から生成したエクソソームを比較(注射針が刺されることを厭わない患者を多く集める必要がないこのオプションの方に多くの研究者が興味を持つかもしれません)を行います。
疾病の診断や予後診断で広く使用されているエクソソームカーゴには、microRNA(miRNA)があります。これがあるかないかを判断材料(バイオマーカー)として、疾病リスク19、発病20、進行21または回復22を直接予測することができます。 エクソソーム片からmiRNAを単離することは標準化23されており、今日、全身や特定臓器から疾病固有のmiRNA情報を引き出すために広く使用されています。
1つの細胞株やヒト個体群から、エクソソームをバイオマーカーとして疾病状態を判断するのは信頼できる診断方法で、かつては廃棄処分対象であった体内を循環する情報伝達物質の重要な予測可能性に光を当てています。 これらのミクロな情報伝達物質からはこの先まだたくさんの情報が解明されていくでしょう。
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