Williams博士のラボにおける発見

Dr. Williams in Lab next to CytoFLEX

発見したい。この情熱が、世界中の科学者を新しい仮説の探索や新しい疑問の検証へと駆り立てます。発見は頻繁に起こるわけではありませんが、もし起こったなら…それはすばらしいことです。ブリティッシュコロンビア大学バンクーバー校のKarla Williams博士のラボに所属する科学者は、細胞外小胞をがんの予後指標および診断指標に利用しようとしており、現在は前立腺がんおよび乳がんに焦点を当てています。こつこつと研究を重ねることで、彼らはがん生検の方法を革新させるような技術と、診断および長期転帰を評価する指標にたどり着きました。

前立腺がんおよび乳がんにおいて、死亡率は診断率とそれほど相関していません。ほとんどの患者は治療が難しい後期のステージにあり、過剰診断も多く起こります。Williams博士のラボでは、前立腺がんの患者に認められる前立腺特異抗原(PSA)に注目しました。男性1,000名を検査すると、そのうち230名は高いPSA値を示します。この230名は侵襲的な生検を受ける必要がありますが、その結果、半数以上は前立腺がんではなく、小さな不活性の良性腫瘍あるいは完全な誤診であることが判明しました。

Figure showing the percentage of positive tests and how they correlate to aggressive cancer versus misdiagnosis
図1:前立腺がん検査における陽性率、そのうち、悪性と、良性腫瘍または誤診の割合。


図2

「ある種のがんの検出方法は改善する必要があり、さらにこれらのがんの中でリスクを層別する方法も改善しなくてはなりません。そのため、私たちはリキッドバイオプシーの研究を進めています。ある人の身体が、精密な検査をせずにどのくらい機能しているのかという情報を得ることが求められているのです。」―Karla Williams博士

研究者は血液に着目し、細胞外小胞から得られる情報の種類を調べています。例えば、がん細胞は、がんにかかっているかどうかを示す情報を示す、様々な成分を放出しています。

前立腺がんは、古典的なGleasonスコア評価システムを用いて特性評価をしています。このシステムを用いれば、前立腺がんリスクが低いか高いかを判定できます。


図3

次に大事なことは、判定に信憑性のない侵襲的な検査を最小限にしつつ、最も深刻な前立腺がんを診断できるようにすることです。Williams博士のラボは、この目標を、ナノサイズを検出できるフローサイトメトリーを用いて実現しようとしています。

「前立腺に由来する細胞外小胞を特性評価できるかを判定する試験を開発するのに、ナノサイズを検出できるフローサイトメトリーを活用できないかと考えました。それができれば、その細胞外小胞が悪性の前立腺がんに由来することを示すマーカーについて検討できるようになります」。

Williams博士のラボでは、前立腺特異的膜抗原(PSMA)について検討しました。PSMAは最も一般的なマーカーのひとつですが、その名称とは裏腹に、前立腺に特化したマーカーではありません。そのため、二次マーカーとして前立腺に特異性をもつ別のマーカーSTEAP-1を追加しました。フローサイトメトリーによりPSMAとSTEAP-1の両方をもつことが示された場合、その組織検体は確かに前立腺に由来すると言えるわけです。すばらしい!生物学的な起源が分かりました! さて次は? この組織が、健康なのか疾患の状態にあるのかをどうやって判断すればよいでしょうか?

答:別のバイオマーカーが必要です。Williams博士は以前よりポリシアル酸について検討しており、この物質が前立腺がんにおいて果たす役割に興味をもちました。ポリシアル酸は悪性前立腺がん細胞に存在します。「ポリシアル酸はとても興味深い糖鎖です。この糖鎖がタンパク質の表面に存在すると、タンパク質と環境との相互作用や、この糖鎖をもつタンパク質の機能の仕方が劇的に変化します。」と、Williams博士は述べています。

Williams博士らはまず、ポリシアル酸が本当に悪性前立腺がん細胞の表面に発現しているかどうかを確認したいと考え、バンクーバー前立腺センター(Vancouver Prostate Center)のMichael Cox博士と共同研究を行いました。前立腺がんが進行過程にある患者および退縮過程にある患者に由来する組織検体を調べた結果、ポリシアル酸の発現量は、前立腺がんの予後指標として相関を示しました。ポリシアル酸の量が中程度から高い場合、予後が著しく悪い結果をもたらすことが明らかにされたのです。 


図4:1行目:STEAP-1陽性の細胞外小胞。
2行目:ポリシアル酸陽性の細胞外小胞。
3行目:PSMA陽性の細胞外小胞。
4行目:この3つのマーカーに陽性を示す集団。これらのマーカーすべてが、同じ細胞外小胞に認められることが示唆されます。

 

原発組織を無視して単一のバイオマーカーの量を検討しても大した情報は得られませんが、そのバイオマーカーと原発組織を関連づけることができれば、多くの情報が得られます。

「ここでも、複数の対象を検討することの重要性が示されています。ELISA法により細胞外小胞の何かについて検討しようしても、表面のバイオマーカーの組成は分かりません。ナノフローサイトメトリーは、バイオマーカーの組成を明らかにします…。2つあるいは3つのマーカーの陽性について検討できるようになれば、患者の健康状態や疾患状態をはるかに明確に示せるようになるでしょう。」と、Williams博士は説明します。

 


図5:低リスク検体と高リスク検体のあいだの3つのマーカーに陽性を示す細胞外小胞の差

 

原発組織を明らかにできたので、一歩進めて、高リスク検体と低リスク検体に応用しました。

「低リスク検体と高リスク検体をいっしょに検査できます。今回、3つのマーカーに陽性を示す集団を他の集団からほぼ区別できるようになり、3つのマーカーに陽性を示す細胞数が分かります。ナノフローサイトメトリーにより検出される3つのマーカーに陽性を示す細胞外小胞の数の増加には、決定的な統計学的な有意性があると考えられます」。

細胞外小胞が前立腺に由来することを示すマーカーが発見され、さらに、検体に悪性のがん細胞が含まれることを示すマーカーも分かりました。これらのバイオマーカーは、針コア生検により検出することが可能です。この技術が臨床試験のフェーズに移行すれば、最も悪性の強い前立腺がんに対するがん検査が革新され、侵襲的な検査から血液/血漿を用いた低コストの「リキッドバイオプシー」へと移行する可能性があります。

 

*この研究はまだ発表されていないことにご留意ください。

 

Willliams博士のセミナーをご覧ください。

0:12
1年半ほど前、Williams博士に乳がんと前立腺がんの研究について尋ねるため連絡を取ったところ、フローサイトメトリーを使用して前立腺がん患者の細胞外小胞の特性評価をするために行っている内容について話してくれました。

0:30
私はその研究にとても興味をそそられました。
博士は私に研究プロジェクトへの参加を提案してくれました。その夏、がんの予後指標および診断指標としての細胞外小胞の可能性について私は確信しました。
細胞外小胞の分野はほとんど未開拓のままで、発見されるのを待っています。

0:50
ウィリアムズ博士の研究室で働く前は、薬学部を卒業し、つい最近薬剤師として働き始めたところでした。
しかし、私は自分に挑戦し新しい問題を解決する手助けがしたいと思い、博士課程の学生として彼女の研究室に参加しました。

1:08
これまでは、フローサイトメトリーを使用した経験はありませんでした。実際、学部で必修の基本的な化学や生物学の授業を除いて、ラボで働いたことも全くありませんでした。
Williams博士が初めてCytoFLEXを紹介してくれたときにはとても複雑な機械に見えました。でも2、3回使用で、ソフトウェアの使用方法と多数のサンプル分析の速さを直感的に理解していました。
だいたい4〜5回使用したくらいで、私は実際にソフトウェアのコツをつかみ、フローサイトメトリーが実際にどのように機能するかを理解しました。
 
1:42
CytoFLEXを使用することで、多数の疾患のモニタリングにかかるコストを削減できるハイスループットメソッドが使用できます。
CytoFLEXを使用する上での最良の点は、サンプルを準備して機械に入れたら、機械から離れて他の実験を行うことができ、作業が完了したらすぐに機械に戻ってデータ分析ができることです。

2:08
Williams博士と私が取り組んでいたプロジェクトは、前立腺がんの細胞外小胞の特性評価に関するものでした。
ナノサイズの検出ができるフローサイトメトリーを使用して、さまざまな前立腺組織固有のバイオマーカーを分析しました。
前立腺がん患者で過剰発現していると思われる前立腺特異的膜抗原(PSMA)もそのうちの1つでした。
血液サンプルを収集することで、これらのがん患者のリスク層別化に役立つ新しいリキッドバイオプシーを開発しました。

2:38
Williams博士とこのプロジェクトに取り組んだことで、さまざまなバイオマーカーの発見に関して私たちの行く末にとてもワクワクしています。
そして、私たちがこの短期間で収集したデータは、博士と一緒に前立腺がんだけでなく将来的には他のさまざまな疾患についてのプロジェクトにも取り組みつづける後押しになっています。

3:00
薬剤師としての仕事からキャリアを変えるきっかけとなったのは、患者さんの生活に新しい積極的な変化をもたらす能力でした。
私たちの研究室で行っている研究は、個別化された患者ケアを通じて人々を治療し、支援する方法に革命を起こす能力を持っています。

 


The CytoFLEX is for Research Use Only. Not for use in diagnostic procedures.

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